私の母は岩手のコメ農家の出身だ。子供の頃、学校の夏休みに岩手の田舎に里帰りするのが楽しみだった。奥羽山脈の焼石岳の麓には、見渡す限り緑一色の田園風景が広がり、水田横の灌漑用水には清らかな水が流れていた。これが私の原風景であり、いつか農業に携わってみたいという思いはここから生まれていた。職場で感じていた閉塞感と絶望感の中で私の心に浮かんだのは、この原風景と農業への憧れだった。
理不尽な職場で疲れ果てていた私は、救いを求めるように農業への道を探った。当時住んでいた江東区にはいくつかの区民農園があった。夢の島にある区民農園の抽選に応募すると、嬉しいことに当選の連絡が届いた。10平米ほどの小さな区画だが、ジャガイモ、トマト、キュウリ、枝豆、ナス、サツマイモ、ニンジン、ダイコン等々を植え、その生長と収穫を楽しんだ。私はますます農業にのめりこむようになった。
グーグルで農業の検索ばかりしていた2019年の夏のある日、グーグルがおすすめしてきたコンテンツに、「お百姓さんになりたい」というドキュメンタリー映画の情報を見つけた。まさに自分のことだと思った。映画の主人公は埼玉県三芳町にある明石農園の代表、明石誠一さん。映画は東中野駅近くの映画館で上映されるとのことだったので、さっそく息子と二人で観に行った。上映後、明石さん本人と映画監督が登壇するトークショーがあり、その後、列に並んでパンフレットにサインをいただいた。その日から明石さんの背中を追い続ける日々が始まった。
映画「お百姓さんになりたい」へのリンクはこちら↓
https://www.kiroku-bito.com/ohyakusho-san