なぜ私は大学を離れて麹師になったのか。私の友人知人はみな一様に私の決断に驚き、理由を知りたがった。しかし、私は一度たりとも彼らを納得させられるような話ができたためしがない。複雑な思いが入り混じっての決断だったので、一言で説明することができなかったのだ。また、必ずしも明るい希望だけを胸にしてこの仕事を始めたわけではない。残念ながら後ろ向きな理由もあるし、口外することが憚られるような話も多い。正直に言えば、大学時代の出来事は思い返すのも辛くなかなか筆が進まなかったが、全10話にわたって、私の開業にあたっての経緯と思いを綴ってみた。これを読んでいただけることで、私の思いが伝われば嬉しく思う。それと同時に、私の心の奥底まで見透かされるような気がして、これらの文章を晒すことに怖さも感じている。私の思いは、これから経験を積み、体験を重ねることで変わっていくに違いない。1年後、5年後、10年後に自分自身で読み返してみて何を思うのか。これからの自分の生き様次第だろう。

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