みやとしさんから質問を頂きました。
「でもいつも思うのは酵母などのシンプルな系で少数の分子(タンパク質)を対象にしていると物質的な答えは出るのだろうけど、個体としての進化って難しくないですか?前ビレから腕ぐらいはシュミレートできるのかな?」
進化を支配するメカニズムを知りたいという希望を抱いて新しい研究対象に取り組み始めたわけだけど、本当に進化を研究することなんてできるの?みやとしさんが言うように、個体としての進化を研究対象にするのはなかなか一筋縄にはいかないんじゃないかと多くの人が感じているだろうし、僕自身もこの問題について何度も自問自答してきました。そこで、この機会に進化研究について自分なりに考えていることをまとめてみました。
個体レベルの進化をシミュレーションできるかどうかという問いに対する答えとしては、現時点では不可能ということになるでしょう。では、シミュレーションできなければ個体の進化の研究ができないかと言えば、もちろんそんなことはないと思ってます。詳細な観察に基づく仮説の構築とモデル化、仮説を検証するための実験系の確立、そして実験結果を解析に基づく仮説の検証と新規仮説の提示という科学的方法論によって進化を研究することはできると思うんです。ただ、問題なのは進化のような膨大な時間をかけて進行する事象を実験系にのせることができるのかということ。難しい問題ですが、進化を「ゲノム情報(遺伝子型)に基づいて生み出される新規機能・新規形態(表現型)の環境による取捨選択」と捉えてみると、生物進化研究は2つの質的に異なる段階に分けることができることに気づくことができると思います。第一段階はある生物集団内(種内)の遺伝子型の多様性が表現型の多様性を生む過程、第二段階は表現型が何世代にもわたって自然淘汰を受け、種分化へと至る過程です。この二つの段階のうち、世代を超えた解析が必要なのは第二段階のほうです。第二段階は研究対象とするのが困難なうえ、第二段階は基本的にダーウィニズムで説明できてしまうと思っているので、その困難に挑んでまで取り組もうというのは割にあわないと思っています。僕がやりたいと思っているのは第一段階のほうで、遺伝子型と表現型の結びつきについて深く知りたいと思っています。この生物進化の第一段階は多世代にわたる解析を必要としませんし、実験系にものりやすいと思っています。それでもなお、挑戦しがいのある”骨太の”手強い研究対象だといえるんじゃないでしょうか。
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