3日目(8/12、日)
グランドクーリーダム
マザマ泊 (Freestone Inn)
3日目の朝もホテルの朝食で始まりました。昨日の朝もそうでしたが、今日のホテルもワッフルを焼く機械と、ワッフルのもと(小麦粉の溶かし汁)が置かれていて、自分で作って食べられるようになっていました。アメリカの宿では普通なんでしょうかね?メープルシロップをかけて食べたらとても美味しかったです。
今日はひたすら走る予定になっています。今夜の宿泊地はウィンスロップのちょっと先にあるマザマです。普通、ウェナチーからマザマへはシェラン湖を通って行くのですが、研究者仲間のNさんの勧めもあって、私たちは普通のカスケードループのルートから外れて、クーリーシティーとグランドクーリーダムを回ってマザマまで行くことにしました。Nさんの話によると、クーリーまでの道は見たこともないような地平線の広がる大地の中を走るんだそうです。地平線と聞くとワクワクしてしまいます。
出発前にホテル近くの公園で開かれていたファーマーズマーケットに寄り、地元産のフルーツを買いました。あらためて車に乗り込むと、昨日シェラン湖からの帰りに走った97号線をコロンビア川沿いに北に走り、途中で右に曲がって2号線に入り、クーリーシティーへと向かいました。運転は僕。
はじめは山道で、崖におびただしい数の落書き(どうやって書いたんだろう?)がある場所を通過し、赤茶けた岩肌の間をしばらく走っていると、見渡す限りベージュ色の広大な農業地帯に出ました。その光景を目にしたとき、Nさんがこの遠回りを進めてくれた理由をよく理解できました。何とも例えようにない光景です。百聞は一見にしかずと言いますが、まさにそういうことです。あの場で感じた感覚は表現しようがないのですが、強いていえば、「大陸って、こういうことだったんだ」という感じです。
気持ちが落ち着いてきたところで周りを見回してみると、その広大な大地の隅々まで人の手が行き届いていることに気づきました。農地だから当たり前と言えば当たり前なのですが、この無限とも思える広大な土地の隅々まで管理しうる人間の能力にただただ感服するばかりでした。しかし、星好きな自分が最後に思ったのはやはり夜のことです。この広大な大地で夜を迎えたら、まさに自分が地球にいるのかどうかわからなくなるくらいの浮遊感を感じたことでしょう。
大平原を抜けると、今度は巨大な赤茶けた大地の塊が目に入りました。隆起浸食作用によって形成された峡谷です。しましま模様は、その大地の塊がかつて海底で堆積したものであることを示しています。この大地の塊は地球の歴史そのものなわけです。そして、地球の持つ巨大な力を感じさせてくれました。
そんな峡谷を抜けると目の前に湖が広がりました。そこがクーリーシティーです。湖のほとりにある公園で昼食を取ることにしました。昼食はおにぎりと、フルーツです。朝、ウェナチーのファーマーズマーケットで買ったチェリーも食べました。ここでも、子供たちは遊具に夢中です。
運転をFさんに交代してもらって、湖沿いに北上して行くと、ダムの町、グランドクーリーに着きました。ウィキペディアによると、グランドクーリーダムは、「その巨大さから、ダムの規模を正確に把握することは難しい。 ダムの横幅(堤頂長)は約 1.6 キロメートル、高さはナイアガラ滝の2倍以上で、ギザの大ピラミッドよりも高い 168 メートルである。 仮にギザのピラミッドすべてをグランドクーリーダムの基礎に並べたとしても、それらピラミッド全てが堤体外形の中に収まってしまう。 堤体積は 915万立方メートルで、コンクリート構造物としてはアメリカ合衆国最大、コンクリートダムとしても北アメリカ最大である。」しかし、広大な平原、巨大な岩の塊を見てきた私たちにはその巨大さはいわば、「想定内」であって、圧倒されるというほどの威圧感を感じませんでした。
ダムを後にして、またひたすら乾燥地帯を走って行くと、いつの間にか針葉樹林の森の中を走っていて、カスケード山脈に戻ってきたんだなと実感しました。カスケードループに戻るとすぐにウィンスロップの街に入りました。西部劇風の建物ばかりなので、地図を見なくても、ウィンスロップに着いたんだということがわかります。今日は、ウィンスロップは通過して、マザマに向かいました。時間がないわけじゃなかったのですが、この旅最大の目玉である今夜の宿泊地、Freestone Innに早く着きたいという気持ちでした。
マザマの街を1マイルほど過ぎたところで道路際にFreestone Innの看板が見えました。くねくねした敷地内の道をゆっくり進んでいくと、大きなログハウス風の本館が見えてきました。Fさんと一緒に建物に入り、フロントでチェックインを済ませました。フロントから少し入ったところにある大きな暖炉のある部屋には無料コーヒーが置かれていて、さっそくFさんとコーヒーを頂きました。Freestone Innは敷居は高くないけど、優雅なリゾートの雰囲気を醸し出していました。
僕らは、本館ではなく、本館の周辺に点在しているキャビンを予約していました。C-13キャビンのドアの鍵を開けると、ほんのりと木の香りが漂い、もうその香りだけで僕らのハートはわしづかみにされてしまいました。この$305のキャビンは2ベッドルームなので、二家族で泊まってもプライベートを守れるところがいいです。ディナーの予約は6時45分なので、それまでトレイルを散策することになりました。本館前にある湖を一周するトレイルは全長0.4マイルで、子供たちを連れていても問題ない長さです。日本で見たことのない、鮮やかな水色の糸とんぼがたくさん飛んでいたのが印象的でした。
ディナーを予約した時間になったので、みんなで本館のレストランに向かいました。二日連続の豪華ディナーとなりましたが、僕が頼んだのは昨日と同じようなステーキ。いくつになっても、子供の時に刷り込まれた「ビーフステーキがいちばん豪華な食事」という固定観念が頭から離れないのです。そして、昨日と同じ光景は、料理の豪華さだけではありませんでした。にんじん屋さんの落ち着きのなさといったらひどかったです。こんな素敵なレストランでほかのお客さんの迷惑になることだけは避けたかったので、にんじん屋さんがイタズラを始める度に表に出て行って、にんじん屋さんのガス抜きをする必要がありました。せっかくのステーキなのに、駅の立ち食いそば並みの勢いで腹に収めて、後はにんじん屋さんの相手をするはめに。豪華なリゾートホテルでの優雅なディナーとはほど遠い現実でしたが、かといって全く楽しめなかったわけでもなく、これも子連れの旅と割り切って楽しむことにしました。
ところで、宿泊したキャビンは、冬になるとリッチな人たちがひとシーズン借り切って、スキーに興じるようなところで、ちゃんとしたキッチンが備え付けられていました。それを考えると、子連れでレストランに行って窮屈な思いをするよりも、このキャビンでカレーでも作って、皆でワイワイやって、持ち込んだワインで食後のひとときを過ごしたほうがより楽しかったのかもしれません。この旅で、このことが一番の心残りでした。
Freestone Innでの夜も更けて、楽しかった一日も終わりとなるわけですが、僕には一つやっておきたいことが残っていました。星空観望です。シアトルはやはり都会なので、せいぜい3等星くらいまでしか見えません。それに、街中で夜に外をうろつくのは治安の点でちょっと不安です。ここでならそういった問題はなさそうです。さっそく懐中電灯を持ってキャビンの外に出てみると、懐中電灯なしでは一歩も歩けないほどの暗闇に包まれました。ドキドキしながら空を見上げると、目が慣れてくるにつれてはくちょう座周辺の天の川がくっきりと見えてきました。残念ながら雲の合間からの星空観望となりましたが、ペルセウス座流星群らしき流れ星も4つ見えて、久々の星空を楽しむことができました。